犬の妊娠期間は約2ヶ月で、その間に様々な妊娠に係わる症状が現れます。今回はそれらの症状の原因やその対処方法などを解説します。
妊娠期間について
妊娠期間は母犬の体調や体格、年齢、胎仔(たいし)の数によって違ってきます。胎仔数が多ければ妊娠期間が延長し、逆に少ない場合には妊娠期間が短縮する傾向にあります。妊娠期間は平均約62日で前後約5日程度の誤差があります。
着床について
交尾後、卵管内で受精が行われ、細胞分裂を繰り返しながら受精卵は子宮内に向かって下降します。胚となった受精卵は子宮内にて浮遊し、やがて子宮内膜に接着します。つまり着床と言います。着床までの時間は個体により異なり、受精後約11~23日で着床が始まると言われています。
妊娠兆候“つわり”について
犬が妊娠して約2~3週間の着床時期に、食欲の低下や嘔吐などのつわりのような症状や、味覚の変化によって今まで食べ慣れていた食物やおやつを食べなくなることもあり、これも妊娠の兆候の一つです。この期間は胎仔の器官形成期であるため、安易な薬物投与は胎仔奇形を招くようなリスクがあるため、各種ワクチンや予防薬などの投与は極力避けるようにしましょう。また、この時期の催奇形性についての安全性は確認していな薬が多いため少量、短期間投与にとどめるべきと考えられています。動物病院に相談してください。つまり、交尾後2~4週間にかけては不慮の事故や感染などに十分注意を払うよう心がけましょう。
妊娠判定について
犬には妊娠検査薬がないので、簡易な方法で妊娠判定することはできませんが、症状によって判定します。動物病院でホルモン検査による妊娠判定も可能ですが、一般的ではありません。
交尾後妊娠すると約4~6週間経過すると乳腺がはり、乳首周辺の毛が抜け落ちます。腹位の膨らみが見られ、この頃から落ちていた食欲が回復してきます。また、外陰部からおりもの様な粘液が出る症状も見られることもありますが個体差があります。
妊娠約4~5週になると動物病院でのエコー検査にて胎囊(たいのう)を観察することができるため、妊娠の確定診断となります。また、その頃には個体差はありますが、腹部の触診でも確認することが可能となります。
営巣(えいそう)行動について
交尾日から数えて約42日以降の妊娠後期になると、母犬にも様々な母性的心理状態から行動にも変化が現れてきます。つまり、犬の祖先であるオオカミの妊娠では、本能によって外敵から発見されないような場所に穴を掘り、そこで出産し子育てします。犬の妊娠後期で床を引っ掻く様な行為、または土に穴を掘る行動を営巣行動と言い母性本能からくる自然な行動です。
胎仔数の確認
妊娠約45日頃から胎仔の頭蓋骨や骨盤などの骨格がレントゲンに映るようになります。しかし、小型犬種では骨格が小さく薄いため50日頃にならないと映らないことがあります。胎仔数を知っていることは出産の終了判断に役立ちますので動物病院で検査してもらってください。
偽妊娠について
発情終了後に交尾の有無にかかわらず、また、妊娠していないにもかかわらず妊娠と同じような症状や行動示すことを偽妊娠といいます。症状は、つわり時にみられるような嗜好の変化、食欲不振、嘔吐からはじまり乳腺の発達、体重増加がみられます。このような営巣行動などの行動や生理的変化を認めることがない状態を偽妊娠といいます。
偽妊娠のメカニズムは、排卵後に黄体が形成され、黄体ホルモンが分泌されますが、長い間分泌されることによって偽妊娠となります。黄体ホルモンの量が多い場合は偽妊娠も長くなります。また、黄体期の終わりに黄体ホルモン濃度の低下とプララクチン濃度の増加によって営巣行動や泌乳を特徴とする症状を仮性妊娠と言いますが、この状態も偽妊娠と言うこともあります。
これら偽妊娠の症状も平均約2~3週間程度で落ち着きますが、それ以上継続することもあります。数ヶ月以上継続する場合はホルモン疾患の疑いもありますので動物病院での診察が必要です。
出産の症状
予定日から1週間ほど前から母犬の症状を注意深く観察しましょう。とくに床を頻繁に引っかくような営巣行動や落ち着きなくうろうろするなどの行動が見られたら出産が近いというサインです。母犬が安心して出産ができるよう、産箱を確保してあげてください。
出産当日には落ち着きがなく常にうろうろしたり、呼吸がいつもより荒く激しくなったり、体温が平熱より1~2℃以上下がったり、食欲がなくなったり、排尿や排便の数が多くなったりします。
出産兆候が見られたら、まもなく分娩(ぶんべん)がはじまります。母犬は陣痛(じんつう)に耐えながら両足を踏ん張るようにしていきみます。最初に羊膜(ようまく)のうと言われる果物の巨峰みたいなものが陣痛と共に排出されます。同時に破れて薄い緑色の液体が陰部全体を濡らし産道を滑らかにします。母犬は一生懸命それを舐めまもなく第1仔が出産されます。
陣痛のはじめから遅くても2~3時間以内に第1仔が出産されます。それ以上経過した場合には動物病院に連絡して指示に従ってください。
助産について
仔犬はツルツルした羊膜に包まれて生まれてきます。多くは母犬がこの羊膜を破ってへその緒を噛み切り、子犬の体や 鼻先をなめて呼吸を促します。胎盤は母犬が食べますが残っていたら取り上げてください。母犬は人目を避けて出産することがありますが正常な行動です。しかし、正常な母犬として保育行動を行わない母犬もいますので、その際には飼い主の補助が必要です。
早産と遅産について
妊娠56日頃に分娩してしまうことを早産といい、分娩後の新生仔管理が適正であればそのまま育つことも可能です。しかし、逆に65日以上になっても分娩に入らない場合は遅産といい、胎仔の数が少なく母犬の子宮の中で大きくなりすぎて難産になることがあり、このような場合には動物病院での診察が必要です。
症状が見られた場合の対処法
つわりの対処方法
つわり症状の場合、この時期の薬物投与は避けた方が良いので、不足している水分や電解質を補うようしてください。症状が酷い場合には動物病院での処置が必要となります。一般的に多くは妊娠3週過ぎれば治まります。
営巣行動の対処方法
営巣行動は犬妊娠時の正常な行動です。出産時には母犬が落ち着ける薄暗い静かな場所が必要になります。産箱は市販の物や段ボール等での自作でも構わないので、仔犬が這い出さない程度の高さで、広さは母犬が横になっても十分なスペースがある物を用意してください。また、冬は温度管理が可能な環境を作ってあげてください。
偽妊娠が見られた場合の対処法
多くの偽妊娠は自然に治まりますが、乳汁の分泌が確認された場合、授乳や搾乳行為は避けてください。また、乳房が張っていても乳房を温めたり冷やしたりすることは良くないので行わないでください。犬自身または同居犬が乳房を舐めたりしている場合には、その刺激により乳汁の分泌が継続するためエリザベスカラーなどを装着してその行為を止めさせてください。場合によっては乳汁の分泌を抑えるために1日間絶食して、徐々に食事を増やすことも効果的です。しかし、乳房が腫れ上がって熱感を伴っている場合には、乳腺炎や乳房炎などが起きていることがありますので動物病院での診察が必要です。偽妊娠は年齢を重ねるたびに重度化することもありますので避妊手術することも考えて下さい。
分娩兆候が見られた場合の対処法
体温の降下 体温は予定日の10日ほど前から朝起床直後と夜就寝前の2回、落ち着いた安静時の体温を記録してください。運動直後や食事の前後などは体温が上昇することがあるのであまり参考にはなりません。その計測した体温が1~2℃下降すると24時間以内に陣痛が起きます。あくまでも安静時の体温データーに基づきます。
難産に対する場合の対処法
仔犬の頭や足が母犬の外陰部につかえてしまった場合 軟らかい布で仔犬の頭や足をつかみ、ゆっくりと、かつ強く引っ張り出してください。引っかかって引っ張り出せない場合は動物病院や犬のお産に熟練したブリーダーに相談して手伝ってもらってください。
陣痛が始まっても出産されない場合 羊膜のうが排出され、それがそのまま、または破れてから2~3時間以上経過しても第1仔が出産されない場合、難産ですので動物病院での手当が必要です。陣痛微弱の場合には陣痛促進剤で陣痛を促します。なお、骨盤に胎仔が留まって生まれない場合には帝王切開の必要もあります。
出産が順調に進んで、次の仔犬が生まれてこない場合、その間の時間が2~3時間以上経過した場合にも動物病院での処置が必要になります。例えば、胎仔数4頭妊娠していると事前に判っている場合、4頭×2または3時間=8~12時間が出産に最長かかる概ねの時間です。
愛犬の安全な出産のために飼い主さんにできること
出産予定日を知ることは大切です。発情出血の確認できた日を確実に記録してください。それを忘れた場合には、発情出血の薄くなった日、治まった日でも結構ですので記録することが大切です。また、交尾した日も記録しておいてください。動物病院やブリーダーなど専門家と相談して出産予定日を算出してもらいましょう。
胎仔数の確認は出産準備や分娩時間などの把握する際に必要ですので、妊娠50日前後に動物病院でレントゲン検査しましょう。胎仔数が少ない場合には出産予定日より早め、逆に多い場合には遅めになる傾向があります。
出産時に連絡が取れる専門家からのアドバイスを受けましょう。動物病院の多くは休診日、休診時間などが設けられています。出産は決まった時間に症状が現れなく不規則ですので、事前に動物病院の診察時間など調べておきましょう。また、犬の出産に詳しいブリーダーやペットショップなどにもアドバイスを受けて連絡取れるようにしましょう。最近では動画サイトでお産の様子を容易に視聴可能なので、そちらもチェックしておきましょう。
体温の測定は必ず行いましょう。体温計はペット用で肛門に差し込んで直腸温を測定することがベストです。犬は少し動いただけで体温が上昇しますので安静時の測定が必須です。起床直後と就寝直前の体温を測定し記録してください。体温の1~2℃下降が確認されたら間もなく分娩です。
母犬の確実なワクチン接種は、生まれてくる仔犬の免疫力の保持にも影響しますので重要です。主治医と相談しながら接種して下さい。